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第三者意見

上智大学 名誉教授 上妻 義直 氏

上智大学 名誉教授
上妻 義直

1. 長期ビジョン・長期目標

今年度の最も画期的な成果はCO2排出量の長期的な削減目標を公表したことであると思います。「2050年以降のできるだけ早い時期にグループのカーボンニュートラルを実現し、鉄鋼事業では2030年度に2013年度比で20%以上の削減を目指す」という目標は、グローバルな製鉄業界のなかでも先進的なアルセロールミタルの長期目標に匹敵する革新的なコミットメントであり、現在のところ他のアジア各社の追従を許さない意欲的な目標設定になっています。また、この目標は、「経済的持続性と環境的・社会的持続性という二つの持続性を兼ね備え、長期にわたって価値創造し続ける強靱な企業グループを目指す」という、これまで明言されてこなかったグループ長期ビジョンに関連して言及されており、長期ビジョンと長期目標を明確にして、本格的に持続可能な社会への適応に取り組もうとする、JFEグループの経営姿勢を印象づけています。

2. ジェンダー関連施策

ジェンダー関連では、JFEホールディングスが、2019年の女性監査役に続いて、2020年には女性取締役を選任したことが特筆すべき成果です。将来的な女性役員の増加を下支えする女性管理職者数も、2020年までに2014年8月比で3倍増という目標が2019年4月に前倒しで達成されており、すでに2025年までに5倍増という新たな目標に更新されました。企業業績の向上に有意な相関があるといわれる女性役員の選任は、長年日本企業の懸案事項になってきましたが、JFEグループの地道な努力は少しずつ結実しているようで、今後の進展に大きな期待を抱かせています。

3. KPIの定量化

今年度はKPIの一部見直しが行われ、課題であった定量化も着実に進められています。また、取り組みの達成度評価に向けて、評価基準も定量化されており、情報開示の透明性は一段と向上しました。異なる事業会社グループからなる大企業が、組織行動に定量的な評価基準を設定し、それを公表するには相当困難な社内調整の過程があったと拝察されますが、その困難を乗り越えて実行した点に持続的成長を目指すJFEグループの強い決意を感じます。

4. 今後の課題

報告書がWeb開示になったことで、大量の情報がサイバー空間に蓄積され、必要な情報の検索に時間と技術が必要になっています。報告書間の情報関連付けやWeb構成の見直し等を含めて、利用者にやさしいWebの改善が望まれます。また、人権・環境デューディリジェンスの義務化がグローバルに進んでいることから、その傾向に適合できる社内体制の整備も今後の課題になっています。

 

 

立教大学 21世紀社会デザイン研究科 特任教授 河口 真理子 氏

立教大学
21世紀社会デザイン研究科 特任教授
河口 真理子

今年で4年目のコメントとなります。4回のCSR報告書を通じてJFEグループの環境戦略の深化を確認する機会をいただきました。そのなかでも昨年のTCFDのシナリオ作成は日本企業としての先進的な取り組みでした。今年はコロナ禍に社会の関心が向かっているなかで気候変動対策を飛躍させ、2030年までに20%のCO2削減を、2050年までにはカーボンニュートラルを長期目標として掲げられました。燃料ではなく原料として石炭を使う高炉の場合、脱石炭は製造工程の革新的イノベーションと大胆な業態転換などを前提にしなければほぼ不可能だと思います。まさに経営の大英断だと敬意を表します。そして経営がこの決断に至った背景には、昨年策定したTCFDのシナリオが脱炭素経営への道筋を示しそれが経営に浸透された成果だと考えます。

今報告書の「JFEグループのTCFDへの対応」に掲載されたTCFDの2℃、4℃シナリオの7つの重要な要因(鉄鋼プロセスの脱炭素化、鉄スクラップ有効利用ニーズの高まり、自動車向けなどの鋼材需要の変化、脱炭素を促進するソリューション需要の拡大、気象災害多発による原材料調達不安定化、気象災害による拠点損害、国土強靭化)は、いずれもJFEにとっての中長期的なリスクや機会について経営の認識を示したものですが、気候危機時代における、地球環境、産業、社会が直面するリスクを示したものでもあり、さまざまな事業体にとっても参考になります。では、こうした危機を想定した経営の舵取りをどうするか、まさに多くのステークホルダーの関心事です。また、カーボンニュートラル実現に向けたCO2削減ロードマップは、冒頭の大胆な脱炭素戦略の根拠として説得力があります。次回からは、TCFDシナリオを前提に長期戦略を立てたという見せ方にすると説得力が増すと思われます。

コロナ禍に世間の関心が集中しグリーンリカバリーが提唱されているなかで、世界各地において気候危機は確実に悪化しています。大型ハリケーンや台風、大規模な山火事など自然災害の影響が加速度的に大きくなっています。次回は2℃、4℃シナリオから1.5℃シナリオへのバージョンアップを期待したいです。なおその場合、カーボンニュートラルという緩和策の強化に加え、異常気象への適応策、レジリエンスの強化にシフトせざるを得なくなると考えます。今回の4℃シナリオでは抽象的に書かれているリスクも、より具体的な対策が必要となります。

一方でレジリエントな建物、街インフラ整備は鉄鋼業としてビジネスチャンスにもなります。今回、環境配慮型プロセス・商品のさまざまな技術や製品が紹介されていますが、技術カタログ的なので、これを戦略ごとに整理すると企業価値との関連がわかりやすくなります。

なお、今回の報告書では冒頭にグループ全体と事業部門別のバリューチェーンにおける社会課題、リスクと機会を開示しています。これはJFEグループの事業全体を理解する上で参考になります。特に、気候変動の緩和と適応両面において現場では待ったなしに取り組まなければという切迫感が読み取れます。一方で社会課題、人権や働き方については、キーワードを載せたというのんびりしたニュアンスを感じます。しかし鉄鉱石や石炭の採掘現場、それらの海上輸送というサプライチェーンにおける人権問題の重要性は高まっています。モーリシャス沖で日本の貨物船が座礁しましたが、これも船員がWi-Fiにつながりたくて航路を外れたのが原因ともいわれます。長い航海における人権配慮の重要性を示すと理解しましたが、鉱山の現場から船舶運航における乗務員や港湾労働者などの人権配慮についても経営課題として一段の配慮が求められるようになると考えます。

人の問題といえば、グループの女性活躍について女性が少ない職場においてできる努力をされていると思いますが、この分野では世界の流れから日本全体が大きく遅れています。役員会でのジェンダーダイバーシティは、女性のためではなく、経営のリスクやチャンスを把握するための企業価値向上策です。さらなる取り組みを期待します。女性比率が低いのは業態特性上仕方がない部分もあります。採用段階で女性比率を上げると同時に、その比率が、ジュニアからシニアの管理職、そして役員までも減らないというような目標設定が実質的かもしれません。グローバル企業としては同時に役員会での国籍のダイバーシティも期待いたします。

最後に、本報告書は鉄の価値や業界動向、個別の環境配慮型技術の説明なども詳細に記載されており、鉄鋼産業の環境対策の教科書ともなる報告書です。ただし、業界と企業の活動が判別しづらいのがデメリットなので、業界動向や鉄鋼についての情報は別に小さく整理するなどの工夫がほしいです。

また、バリューチェーンを明示されたところで期待したいのが、エンジニアリング事業や電炉など、サーキュラーエコノミーに資するグループ横断的な戦略です。鉄は資源として優位とはいえ有限ですし、鉱山にさまざまな環境社会課題があります。今回の脱炭素化に加えサーキュラーエコノミーへのコミットを掲げていただきたいです。そして日本のみならず世界を脱炭素とレジリエンス、サーキュラーでリードされることを期待しています。