1998年2月24日

川崎製鉄株式会社

高靭性 非調質厚鋼板の開発について

1.川崎製鉄は、570MPa(メガパスカル)級(=高張力)の溶接構造用圧延鋼材(SM規格)において、焼入れ焼戻し処理(=調質処理)なしで、調質鋼レベルの高強度・高靭性を実現する「極低炭素ベイナイト厚鋼板」を開発し、このほどサンプル出荷を開始いたしました。

・「焼入れ」:鋼の強度や靭性を増すために行う熱処理。
・「焼戻し」:焼入れした鋼の靭性を増すため行う熱処理。
・「ベイナイト」:オーステナイトの冷却変態生成物の1つで、高強度で粘り強い組織。
 注)オーステナイト:炭素を固溶しているγ鉄(摂氏910度から摂氏1400度の間における鉄)

2.JIS規格である、溶接構造用570MPa級高張力鋼板の製造においては、熱間圧延後に調質処理を施す(調質鋼)、施さない(非調質鋼)、の2種類の製造方法が認められておりますが、従来は「調質鋼」が一般的でした。
 しかし「調質鋼」の場合、厚肉の溶接構造用厚鋼板を製造する際に、焼入れ処理における冷却速度が表面と内部とで異なることに起因する材質の不均一が避けにくく、また熱処理自体に余分なエネルギーや工程日数を要するという問題があります。

3.一方、従来の「非調質鋼」の570MPa級高張力鋼は、高強度を得るために、炭素およびクロム、モリブデン、バナジウム等の合金元素を添加する必要があるため、「調質鋼」と比較して、

(1)溶接性能が劣る(特に溶接時の割れがおこりやすい)
(2)低温における靭性の必要値を満たす、厚肉の鋼板の製造が困難なため、25mm以下の薄肉の用途に限られてしまう
など、技術的に克服すべき多くの問題がありました。

4.一般に高張力鋼板の製造にあたっては、炭素で高強度化しております。ところが、今回開発した鋼板は、鋼中の炭素量を従来の10分の1程度に減らすとともに、銅、ニッケル、ニオブ、ボロン等を適量添加することにより、炭素に依存することなく「非調質高張力化」を実現した、世界初の画期的な厚鋼板です。

5.この鋼板の特徴は以下のとおりです。

(1)570MPa級 高強度 溶接構造用厚鋼板において、JIS規格のSM570Q(調質鋼)レベルの高強度・高靭性を、非調質で75mm厚まで得られます。
 橋梁は近年、少主桁化(主桁に厚肉の鋼材を使用して本数を減らす)が指向されており、75mm厚の高張力鋼は、この用途に最適です。
(2)溶接熱影響部は、従来の4倍の200KJ(ジュール)/cmの大入熱溶接で、摂氏−20度の環境条件まで使用可能です。また、従来の570MPa級の鋼板では必要だった、溶接時の予熱を省略できます。
 これにより、溶接施工工数の大幅な削減が可能です。
(3)アークストライクや小入熱溶接を行っても、全く硬化せず、割れの心配がありません。
 そのため、構造物の安全性・信頼性が高まります。

6.土木向け鋼構造用鋼、橋梁用鋼板としての特性を確認するため、サンプル出荷を開始するとともに、本格出荷のための製造体制の整備を完了しました。併せて鉄骨・建築用としての検討、さらにはラインパイプ、圧力容器用等、より広範な適用分野の検討を行っております。

本件に関する問い合わせ先
川崎製鉄株式会社 広報室 03−3597−3844

以上