トップメッセージ

社会の持続的発展と人々の安全で快適な生活に寄り添う「なくてはならない」存在を目指します。

2025年9月
JFEホールディングス株式会社
代表取締役社長(CEO)
北野 嘉久

JFEグループの目指す姿

かつて経験したことのない課題、難題が押し寄せてきている事業環境下、JFEグループでは、社員一人ひとりが自分達の事業、組織、個人の「存在意義」を自ら考え、長期的視野で「ありたい姿」「目指す姿」を描くべく、事業会社毎に「パーパス」(存在意義)を策定し、そのパーパスに基づいて「JFEビジョン2035」(長期ビジョン)を定めました。


これまでもJFEグループは、気候変動問題を中心とするサステナビリティへの取り組みと、グループの持続的な成長に欠かせない経済面の重要課題に対する取り組みを推進してきましたが、今般策定したパーパスに基づいた「JFEビジョン2035」では、「CN(カーボンニュートラル)に向けた技術開発でのトップランナー」「グループ事業利益増大(セグメント利益7,000億円)」の2つのJFEグループが目指す姿を掲げました。


温室効果ガス(GHG)削減、カーボンニュートラルを目指していくことは、地球上で人類が快適なくらしを継続するためには避けては通れない大きな課題です。異常気象による自然災害を目の当たりにするたびに、地球温暖化の波が差し迫ってきていると感じており、気候変動問題への取り組みは最重要課題であることは疑いようもありません。


私たちは、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて2035年度までに1兆円、2036~2050年度には4兆円規模のGHG削減関連投資が必要と試算しています。このためには、事業利益を拡大し、財務体質を強くして乗り越えていく必要があります。これらの投資に必要な水準として、「JFEビジョン2035」では2035年度のセグメント利益の目標を7,000億円としました。環境・社会的持続性への取り組みは、JFEグループの使命であり、企業としての経済的成長につながっていくと考えています。


この「サステナビリティ報告書2025」では、私たちJFEグループの持続的成長への取り組みについてお示しします。

サステナビリティへの取り組み

2025年度よりスタートした第8次中期経営計画では、前中期経営計画で経営上の極めて重要な経営課題として位置付けてきた「気候変動問題」に加え、「循環経済への移行」「生物多様性の保全・自然再興」に対してグループ全体で積極的に取り組んでいきます。


日本政府は、2050年カーボンニュートラル、2040年に向けたGX2040ビジョンを打ち出し、日本の産業競争力を確保するという軸足を変えていません。鉄鋼事業においては2050年カーボンニュートラル実現には、新たなプロセス技術の実装とそれを経済的に成立させることが大前提だと考えています。当社は、2050年のカーボンニュートラルの実現を目指し、カーボンニュートラルに向けた技術開発でトップランナーになるべく、超革新技術開発を強い決意で推進し、できあがった技術をいち早く実装して、強みである高品質鋼の生産に結びつけていきます。私は、将来的には鉄鋼に限らず、すべての製品がグリーンなものに変わっていくパラダイムシフトが起こると見ています。この過程で重要となるのが、グリーンスチールの環境価値を世の中に認めていただくことです。また、さらに進めているのが国際標準化です。グリーンスチールの海外需要を拡大していく上でも、この環境価値を国際標準としていくことが大切であり、まさにここを日本が担っていくべきだと考えます。すでに日本鉄鋼連盟では、グリーンスチールのガイドラインを作成しており、これをベースに世界鉄鋼協会でも2024年に「worldsteel guidelines for GHG chain of custody approaches in the steel industry」の公表につなげ、現在は、GHGプロトコル改訂やISOにおける標準化に向け取り組みを進めています。これらの取り組みでも、日本の鉄鋼業界がけん引していくことが重要です。詳細は本報告書の「政策エンゲージメント」にて詳細をまとめています。


また、20世紀の100年間で世界人口は15億人から60億人と4倍にも増加し、2023年には80億人に達し、早晩100億人になると言われています。人口の増加により、資源・食料・環境・格差など、さまざまな課題が我々人類に押し寄せてきていると思います。そうした中で人類が「快適なくらし」を継続するための一つの対策として、循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行は必要不可欠です。循環経済移行への活動は、「JFEビジョン2035」および第8次中期経営計画においても重要な骨格となります。


人類が「快適なくらし」を継続するための一つの対策として、地球上の限られた資源を「最小限に使用を抑える(リデュース)」「何度でも使う(リユース)」「別の形で有効に使う(リサイクル)」という3つの「R」が大事になってきます。こうした課題意識から、循環経済への移行の必要性への意識が社会全体に高まってきています。


私たちJFEグループは、鉄鋼事業、商社事業に加えて、エンジニアリング事業を有する強みを活かし、これまで循環経済への移行に向けたさまざまな取り組みを実践してきています。


例えば、鉄鋼事業では、最終製品のライフサイクルの長期化や高効率による省エネルギー化等により新たな資源の使用を減らすことを可能にする高性能電磁鋼板、自動車向け高張力鋼板(ハイテン)や、高耐食性鋼板、耐疲労鋼板などの長寿命化により「リデュース」につながる商品群があります。鉄鋼製造プロセスにおいては、電気炉への転換や既存の高炉でのスクラップ使用拡大を推進します。加えて新たに倉敷に建設する革新電気炉での高品質鋼材を生産できるような技術開発により、スクラップの活用の幅を広げ、スクラップを新たな製品に生まれ変わらせるという「リユース」を拡大し、同時に石炭の使用量削減によるGHG削減にも寄与します。エンジニアリング事業では、ボトルtoボトル、プラスチックリサイクル、食品リサイクル、廃棄物発電などの事業で「リユース」「リサイクル」を推進します。商社事業は、「リデュース」商品の供給、スクラップなどの原料供給や廃棄物収集による「リユース」「リサイクル」などの取り組みが社会に広がるようサプライチェーンを構築します。今後さらにグループ3社が相互連携し、それぞれの商品、技術を社会に提供できるよう取り組んでいきます。


これら気候変動問題や循環経済移行への取り組みは、生物多様性の保全・自然再興にも貢献すると考えています。JFEグループの事業活動は生物多様性や自然資本に依存し影響を与えているという認識を深め、リスクの低減を図る活動だけでなく、鉄鋼スラグ製品の拡販や自然再興に寄与する製品・技術の開発、事業拠点での緑化、ビオトープの造成・地域への開放などを地域社会やサプライチェーンとの連携も含めた多様なアプローチで活動を推進していきます。


このような気候変動問題や循環経済への移行、生物多様性の保全・自然再興に対しての取り組みは、社員の力をなくしては実現できません。カーボンニュートラルが求められる時代に、事業環境をはじめとするさまざまな変化に対応し、持続可能な成長を遂げるという、かつてない大きな変革の渦中においては、異なるバックグラウンドからさまざまな考えを持った社員が融合することが重要です。そのためにも、社員が能力を最大限発揮していきいきと働ける、魅力ある会社にしていくことが、私の重要なミッションです。「JFEビジョン2035」の中では「会社の成長」と「社員の成長」を連動させる施策として、長期的な目線での人財戦略を策定しました。引き続きエンゲージメント向上に注力し、働きがい向上と人材確保、DEIへの取り組みを推進していきます。


また、一人ひとりの人権が尊重・擁護される社会の実現に貢献することが企業の社会的責任であるとともに経営基盤の一つであると考え、特に「サプライチェーンにおける人権尊重」を重要課題として取り組んでいます。従業員に対する教育・研修に加えて、サプライヤーやグループ会社に対するリスク管理や人権デューデリジェンスの展開など引き続き推進していきます。

ステークホルダーの皆様へ

JFEグループは、これからも社員一丸となって、社会の持続的発展と人々の安全で快適なくらしに寄り添う「なくてはならない存在」となれるよう、コンプライアンスの徹底に真摯に取り組み続けるとともに、気候変動問題や循環経済への移行、生物多様性の保全・自然再興といった環境課題、労働安全衛生やDEI、人権の尊重などの社会課題に、グループ一体となって取り組んでまいります。


この「サステナビリティ報告書2025」では、持続的成長に向けた取り組みを幅広く紹介しています。本報告書がJFEグループの取り組みに対する皆様のご理解の一助となり、忌憚のないご意見を頂戴できれば幸いです。私たちJFEグループに対して、より一層の厚いご支援をいただきたくよろしくお願いいたします。