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CEOメッセージ(統合報告書2023)

CEOメッセージ(統合報告書2023)

JFEホールディングス株式会社代表取締役社長(CEO) 柿木 厚司

JFEホールディングス株式会社
代表取締役社長(CEO)

柿木 厚司

豊かな地球の未来のために、創立以来最大の変革に挑戦

構造改革の完遂により量から質への転換を進め、高水準の収益を安定して確保するとともに、グループの総力を結集して脱炭素技術の早期開発を実現します。

当社の目指す姿

第7次中期経営計画(以下、本中期)を策定した2020年は、全世界をコロナパンデミックが襲い経済活動が大きな痛手を負っていた時期でした。当社主力の鉄鋼事業でも鋼材需要が急減し全く先の見通せない期間がありましたが、こうした時期に全社で徹底的に議論し、策定したのが本中期です。コロナ禍の収束が見通せないこともあり、中期期間を今までの3年から4年へと変更し、アフターコロナを見据えた計画を策定することにしました。その後、ロシアによるウクライナ侵攻等に伴う原材料およびエネルギー価格の高騰、米中のデカップリングによる経済安全保障問題の顕在化等、社会および世界経済が激しく変化しましたが、私は本中期の基本的な方向性は間違っていなかったと確信しています。

当社は2002年に日本鋼管と川崎製鉄が統合して誕生しましたが、振り返ってみれば、その一員(鉄鋼事業会社の組織人事部長)として、当時私が感じた緊張感ないし高揚感と同様な感慨を持って作成したのが、本中期の基本的スタンスである「豊かな地球の未来のために、創立以来最大の変革に挑戦」です。本中期では、社会の持続的発展と人々の安全で快適な生活のために「なくてはならない」存在を目指して、変革に向けた挑戦を続けていますが、これを実現するために、「環境的・社会的持続性」と「経済的持続性」を両立させることを目標としてきました。「環境的・社会的持続性」については、特に気候変動問題への取り組みを経営の最重要課題と位置付け、これに応えるべく「JFEグループ環境経営ビジョン2050」を策定し、「鉄鋼事業のCO2排出量削減」と「社会全体のCO2削減の貢献」を両輪として、脱炭素への道程を示すとともにこれをチャンスとする技術開発に注力しているところです。

また「経済的持続性」については、本中期初年度の2021年度は棚卸資産評価差等の一過性影響もあり中期目標を達成しましたが、2022年度は経済環境の急速な悪化もあり、目標には到達していません。後ほど詳しく述べますが、主力の鉄鋼事業の構造改革を2023年9月に完遂することで、重点目標の一つである「量から質への転換」をさらに推し進め、本中期を上回る実績を上げるべく強い決意をもって臨んでいきます。

JFEグループは、企業理念である「常に世界最高の技術をもって社会に貢献します。」に基づいて、激変する環境下にあっても、その変化に柔軟に対応しながら持続的な成長を目指します。

CO2削減目標 連結事業利益

2022年度の振り返りと今後の展望について

第7次中期経営計画2年目、厳しい環境下でも一定の利益水準を確保

本中期の2年目となる2022年度は、総じて新型コロナウイルス感染症の影響による落ち込みから回復の動きが続いたものの、ウクライナ情勢の長期化や中国における経済活動の停滞、世界的なインフレ懸念の高まりや円安の進行もあり、物価上昇や供給面での制約等の影響が生じました。こうした状況の中、鉄鋼事業では為替影響や棚卸資産評価差等の要因もあり事業利益は前年度に比べ減益となりましたが、主原料や諸物価の価格転嫁による販売価格改善や、高付加価値品比率を向上させる取り組みとともに、構造改革や高炉改修等を着実に実施することで、数量や市況に拠らない強固な収益構造の構築が進んでいます。

特に販売価格改善については、国内鋼材需要の回復の遅れや海外鋼材市況の低迷など厳しい環境ではありましたが、金属やエネルギー、運賃など諸物価上昇分の価格転嫁やエキストラの見直しなどを進めることで、スプレッドは740億円(2021年度比)改善しています。

 

※ 販売価格から主原料や諸物価のコストを引いたマージン

2023年度・2024年度の展望

2023年度は、アジアを中心に足元の海外鋼材市況は軟調が続いていますが、構造改革の完遂や販売価格改善、前年度の一過性の減益要因解消等により、事業利益は前年度比542億円の増益を見込んでいます。鉄鋼事業については、棚卸資産評価差等除きのトン当たり利益は当初目標の10千円到達を見込んでいます。また、2024年度までに構造改革効果(450億円)のすべてを発現させることに加え、無方向性電磁鋼板ラインの立ち上げや販価改善の継続等、本中期で掲げたアイテムを確実に実行することで、中期最終年度(2024年度)には目標(2,300億円)を上回る2,600億円以上のセグメント利益を目指します。

中でも、量から質への転換については、2023年9月に構造改革の最終段階である京浜地区の上工程休止を予定通り実行しました。国内の粗鋼生産能力を年間約400万トン(約13%相当)削減することで、固定費を450億円削減するとともに、プロダクトミックスの高度化を加速させます。

鉄鋼業は装置産業であるため、これまで量を確保することを最優先としていた時代もありましたが、今後は、高付加価値品を世界市場の中でどれだけ販売していけるかが重要です。構造改革によって大幅に生産能力を絞った上で、差別化の困難な汎用品を減らす一方、当社の技術力によって、お客様の使用価値に貢献し、かつ収益力の高い高付加価値品を増やしていきます。

具体的には、自動車向けハイテン、高合金シームレス鋼管に加え、自動車用向け棒線、ハイグレード形鋼(輸出造船向け)を中心に、高付加価値品比率は確実に向上しています。2024年度からは後述する無方向性電磁鋼板の能力増強も貢献してくるため、中期目標50%の実現にも目途がたっています。価格についても、使用価値に見合った水準をお客様から認めていただいており、現段階で汎用品に対するマージンの差も中期目標を超過達成しています。

現在、世界的に自動車の電動化の波が押し寄せてきていますが、今後電動車(EV)に不可欠なモーターに使用される電磁鋼板に対する需要は急伸し、将来的に需給がひっ迫する見通しです。特に当社は航続距離増に貢献する高級電磁鋼板の製造を強みとしており、2024年4月と2026年に西日本製鉄所(倉敷地区)の電磁鋼板製造設備を増強し、EV用トップグレード無方向性電磁鋼板の製造能力を現行比3倍にします。EV市場は確実に拡大が見込める成長市場であり、当社は自動車メーカーのニーズに世界最高の技術力で対応します。(詳細35ページ)

エンジニアリング事業は、中期目標(セグメント利益350億円)の達成に向けて、引き続き受注拡大に取り組むとともに、受注済みのプロジェクトに対しては、資機材費の高騰への対策等に注力し、安定的な収益確保を図ります。また、2023年10月に月島アクアソリューション株式会社と、国内水エンジニアリング事業を統合し、同分野のリーディングカンパニーを目指します。今後も、2030年度売上収益1兆円を視野に入れて、M&Aや業務提携等も活用した競争力強化を図るとともに、安心、安全な社会を創り人々のくらしを支えていきます。

商社事業は、特に事業環境が好調であった米国を中心に、国内外において収益基盤は確実に強化されており、2021年度・2022年度は2年連続で過去最高益を更新しました。2023年度は高水準に推移してきた米国事業の減速は見込まれるものの、セグメント利益は本中期目標(400億円)を上回る480億円を見込んでおり、中期最終年度の2024年度は500億円の達成を目指しています。

本中期の進捗

カーボンニュートラルの実現に向けて

昨年度は、鉄鋼事業において2050年に向けたロードマップを策定・公表するとともに、2027~2030年を目途に倉敷・高炉1基を高効率・大型の電気炉に置き換える検討を行うことを公表しました。またスクラップ使用量の拡大により大幅な二酸化炭素排出量削減が可能となるプロセスを全地区の転炉に導入したことに加え、仙台製造所における電気炉の増強等を決定しました。エンジニアリング事業においても再生可能エネルギープラント、リサイクル施設の建設・運営により2021年度比で約58万トンのCO2削減に貢献しています。

また、こうした取り組みのさらなる推進を目指し、役員の業績連動報酬に気候変動に関する非財務指標を導入することも決定しました。

2023年度は、千葉地区のステンレス製造プロセスにおける電気炉の導入を決定したほか、政府からの支援を受けて複線的にチャレンジしているカーボンリサイクル高炉※1や水素製鉄※2などの超革新技術の開発についても、千葉地区で各技術の試験設備の建設を開始します。

当面は、水素の供給制約や超革新技術の開発進捗などを考慮し、省エネ・高効率化の取り組みに加えて、電気炉によるCO2削減に注力していく予定です。その際に必要となる鉄源確保の一環として、現在アラブ首長国連邦のエミレーツ・スチールの還元鉄※3プラントプロジェクトへの参画を検討しており、将来的な還元鉄の低コスト・安定的な供給拠点として期待しています。

一方で、日中韓印をはじめとするアジアでは大型高炉中心であるため大々的な電気炉転換が難しい状況にあることや、電気炉生産に欠かせないスクラップや還元鉄、再生可能エネルギーの供給環境が不透明であること等から、電気炉生産がカーボンニュートラルに向けた究極の脱炭素製鉄技術になるとは言い切れません。中長期的にカーボンニュートラルに貢献できる、カーボンリサイクル高炉や水素還元製鉄などの超革新技術の開発に早期に目途をつけることが極めて重要です。

2023年度上期からは鉄鋼製造プロセスにおける二酸化炭素排出量を大幅に削減したグリーン鋼材である「JGreeX(ジェイグリークス)」の供給を開始しました。既に常石造船株式会社の水素燃料船や、国内海運8社のドライバルク船への採用が決定しています。CO2削減という「環境価値」を創出するコストをサプライチェーン全体で負担する世界で初めてのビジネスモデルであり、今回のケースでは4割程度のプレミアムを認めていただいています。大規模な投資を通じてCO2排出量削減を進めていく当社の持続的成長にとって、このようなビジネスモデルは不可欠であり、今後もカーボンニュートラル社会の実現に貢献できるグリーン鋼材の価値をお客様に認めていただき、市場の創出を図る取り組みを強力に進めてまいります。

 
  1. ※1 高炉から排出されるCO2をメタン化し、還元材として高炉に吹き込む技術
  2. ※2 石炭の代わりに水素を還元剤として利用する技術
  3. ※3 高品位の鉄鉱石から天然ガスを使って酸素を取り除いた鉄鋼原料

洋上風力発電の事業化推進

洋上風力発電の事業化に向けては、エンジニアリング事業が、笠岡市において国内初となるモノパイル(洋上風力発電用基礎構造物)の製造工場の建設に着手しており、2024年4月からの生産開始に向けて準備を進めています。ラウンド1案件の遅れによる影響を一定程度受けますが、モノパイルだけでなく笠岡工場で生産可能な洋上風力基礎の大口径構造部材についても営業活動を進めています。洋上風力建設が本格化する2020年代後半には、日本を中心に、海外の需要も捕捉し400億円規模の売上を見込んでいます。

当該生産で使用する素材については、西日本製鉄所(倉敷地区)の第7連続鋳造機で製造する高品質・大単重厚鋼板を充当する予定です。同製品は従来よりも大きなサイズの厚鋼板であり、発電量拡大等を目的に風車の大型化が進む中、溶接作業回数の削減を通して作業効率の向上や製造コストの削減に貢献します。このような大きなサイズの厚鋼板を大量に製造・供給可能な鉄鋼メーカーは世界的にも限られ、アジアでは最大級であるため、当社の優位性を存分に発揮できると考えています。また商社事業では鉄鋼や原材料・資機材事業で培ったノウハウでサプライチェーンを構築し、需要家への最適提案を行っていきます。加えて洋上風力のO&M(運用および保守点検)事業も検討しており、鉄鋼事業・エンジニアリング事業のグループ会社などと連携しながら、グループ全体の知見・ノウハウをフル活用し事業化の準備を進めています。(詳細59ページ)

DX戦略の推進

当社グループを取り巻く経営環境は、かつてないほど急激かつ大幅な変化の途上にありますが、変化に素早く柔軟に適応し、中長期的な企業価値向上を確実に実現することを目指してDX戦略を推進しています。

鉄鋼事業では、本中期で1,150億円を投資し、全ラインのサイバー・フィジカル・システム(CPS)導入などを進め、収益改善効果300億円/年を目標としています。2022年度末時点で投資認可は対中期約45%と順調に進捗しており、今後もDXによる収益改善効果を意識しながら投資を進め、第8次中期経営計画では全ラインCPS化を前提とした操業リモート化と自動化の実現を目指しています。一方、エンジニアリング事業では、デジタル基盤の強化やEPC(設計・調達・建設)業務における設計へのDX活用等により着実にDX投資を進めており、2024年度の目標(設計効率20%向上)の実現に向け着実に進捗しています。(詳細64ページ)

 

※ フィジカル空間(実際の設備や製品)に関する莫大なセンサー情報(ビッグデータ)をサイバー空間に集約し、これを各種手法で解析した結果をフィジカル空間にリアルタイムにフィードバックすることで価値を創出するシステム

京浜地区の土地活用

2023年9月の上工程休止に伴い、222haにも及ぶ扇島の土地活用を本格的に進めていきます。2023年8月に川崎市より示された土地利用方針を受け、当社も9月に土地利用構想「OHGISHIMA2050」を公表しました。今後先導エリアにおけるカーボンニュートラルエネルギー拠点の形成や先導エリア以外においてもさまざまな検討を行政とともに進めてまいります。(詳細39ページ)

既に、扇町地区や南渡田エリア北地区北側など扇島以外で具体的な案件が一部進んでいます。今後の開発にあたっては、このような土地売却益や賃料収入を活用するほか、積極的な公的資金の導入について今後、国・市と協議していきたいと考えており、各エリアの特性を活かしながら、「土地売却」「土地賃貸」「事業利用」の3つを組み合わせた取り組みを推進し、企業価値の最大化を目指します。

成長戦略の推進

海外戦略、ソリューションビジネスの進展

鉄鋼事業では、今後も鋼材需要の伸びが期待できるアジアを中心とする海外市場が当社の成長戦略の舞台となりますが、ここでも限りある経営資源を効率的に配分し、量よりも質を重視した成長を目指していきます。

特にインドは急速な成長が期待できる国であり、また中国からの鋼材が入りにくい非常に魅力的な市場です。その中でも、電力需要の急速な拡大に伴い、変圧器に使用される方向性電磁鋼板に対する需要が大きく伸びる見通しです。当社は、インドにおける方向性電磁鋼板の現地生産・販売を検討してまいりましたが、今般インドの大手鉄鋼メーカーであるJSWスチール社との間で、当社50%、JSWスチール社50%の製造販売会社設立に関する合弁契約を締結しました。現地の事業環境に精通した信頼できるパートナーであるJSWスチール社とともに、当社の技術力を活かし、伸長するインドでの需要をインサイダー※として捕捉していきます。合弁会社設立次第、現地での建設を開始し、2027年度にフル生産を想定しています。またインドの需要の伸びに合わせて、順次増強していくことも考えています。(詳細37ページ)

加えて、メキシコのNJSM社や米国のCSI社で協業している米国最大の鉄鋼メーカーのNucor社とは両社の経営幹部が互いに往来し、密なコミュニケーションを取っており、お互いの強みを持ち寄った新たな成長案件も検討しています。

新しいビジネスモデルとして期待しているソリューションビジネスについては、2024年度の収益目標(2020年度比3倍)に向けて、毎年収益を伸ばしており、2022年度は1.5倍以上を達成し、2023年度は2倍以上を目指しています。また今後の長期的な成長を目指して、CPSや保全技術を中心にさまざまな技術を商品化して投入していく準備も進めています。

エンジニアリング事業では、重点地域とするアジアを中心に海外事業を展開しています。環境分野では、アジアの設計拠点であるインドやフィリピンを活用し、プロジェクトの競争力を強化することに加え、官民連携事業、発電・電力事業、リサイクル事業などの運営型事業への進出による収益拡大を図っていきます。基幹インフラ分野においてもM&Aで子会社化したJFEプロジェクトワンとのシナジーにより、化学プラント等の受注拡大を進めています。また、橋梁など鋼構造物関連についてもアジアのみならず、成長著しいアフリカなどの案件を着実に捉えていきます。

商社事業では、急速に拡大が見込まれる電磁鋼板の需要捕捉に向け、2022年度も国内や中国、カナダなどの加工拠点において工場拡張やプレス機などの加工設備を増強し、世界No.1のグローバル加工流通体制構築を進めています。また、海外建材事業では、米国の鋼製薄板建材製品の製造・販売会社を買収し、安定した成長が期待される北米の薄板建材の需要を捕捉します。引き続き成長戦略を推進し、グループ連携によるサプライチェーン強化を図ることでマーケットにおけるグループの存在感を高め、収益の拡大に努めていきます。

 

※ 海外市場で現地の信頼できる優良パートナーに出資し、そこで製造された鉄源をそのまま現地で加工・販売すること

人的資本経営

当社は「JFEグループ人材マネジメント基本方針」や「JFEグループ健康宣言」を制定し、人的資本への投資を通じて従業員の能力や活力を最大限に引き出す施策に取り組んでいます。

変化の激しい経営環境においては、さまざまな価値観や考え方を融合させることで、これまでになかった発想や解決法が生まれ、企業価値の持続的な向上につなげていくことが求められています。当社グループではダイバーシティ&インクルージョンの推進を重要な経営課題として位置付け、性別、国籍や価値観、ライフスタイルなど多様な背景を持つ人材が能力を発揮できる環境づくりに取り組んでいます。特に女性の活躍について、取締役会での議論を経て、2022年度より女性管理職登用・女性採用比率等についてさらに意欲的なKPI(重要業績評価指標)への見直しを行いました。各事業会社では経営層との議論を通じた全社方針の策定と展開を図るとともに、女性管理職の候補者を拡大する「採用」、社内外ネットワーキングの充実やロールモデル提示などの「定着」、女性社員の個別育成計画作成などの「配置・育成」の観点からさまざまな施策を推進しています。

加えて、多様な人材が活き活きと能力を発揮するために、従業員が働きがいを感じられるための社内環境の整備に取り組んでいます。当社および各事業会社ではエンゲージメントサーベイを年1回実施して社員意識を定期的に把握し、働きがい等に関する課題の特定や施策の検討を行っています。

また、安全な作業環境を整備し労働災害を防止することは、多様な社員が安心して働くための基本的な要件と考えています。当社グループは「安全はすべてに優先する」という基本姿勢のもと、安全に関するKPIを定め、さまざまな取り組みを推進しています。本中期では安全対策への優先的な投資(グループ全体で年間100億円規模)を実施し、従来の活動に加え、最新技術の活用により設備そのもので災害の発生を防止する取り組みに注力しています。これらの労働災害防止の取り組みを確実なものとすべく、2022年度より役員の業績連動報酬に安全に関する指標を導入しています。

資本市場からの評価について

当社は、株価を重要な経営指標の一つとしており、本中期においても株主資本コストを上回るROE(自己資本利益率)10%以上を定常的に実現することを目指しています。本中期最終年度(2024年度)に向けて、その目標達成も十分視野に入ってきていますが、残念ながら資本市場からは十分な評価をいただけていません。

これまで鉄鋼業の業績はボラティリティの高い状況が続いてきたことや、今後少子化・脱炭素化が進展する中で将来に対する不確実性が高まっていることから、株主資本コストを上回るROEを将来にわたって安定して実現できないだろうと市場から見られているのだと受け止めています。

当社としては、まずは本中期で掲げた量から質への転換を通じて、安定して高水準の収益を上げられる体質に生まれ変わったことを、明確な形で皆様にご理解いただくことが急務です。加えて成長の源泉である海外戦略を進展させ、これから伸びゆくインドや北米を中心に海外で成長して収益を上げられるビジネスモデルを形にしてまいります。また脱炭素に向けた超革新技術の開発には時間がかかりますので、開発の進展状況やその技術が社会にもたらすインパクトなど、分かりやすく、かつきめ細かく情報開示することにも心掛けてまいります。

世界で19億トンも生産され、人々の暮らしを支えている「鉄」は今後も世界経済の発展に不可欠な素材であることは疑いようがありません。私たちは「鉄」という素材を起点とした商品やサービスを提供する企業として、脱炭素技術の早期確立とそれを支える経済的持続性がこれまで以上に求められることを痛感しています。JFEグループは、自社の持てる力を結集してこれらの課題にチャレンジし脱炭素技術の早期開発によって、ピンチをチャンスに変えるべく邁進していきます。

最後に

2022年、当社は、日本鋼管と川崎製鉄が経営統合して発足20周年を迎えました。こうした節目もあり、2022年末から「持続可能な社会の実現に向けて、なくてはならない存在」を目指す当社の意気込みを「サス鉄ナブル!」というキャッチコピーに込めて広告宣伝活動の展開を始めました。この活動は、多くの皆様に当社を知っていただくためだけではなく、企業の持続的成長に不可欠な人材確保・育成の観点からも大変意義のある取り組みだと考えています。将来にわたって当社の活動を長く支えていってもらう若手社員や、これから入社する可能性のある学生の皆さんに、当社の仕事や鉄という素材を通じて、これからの社会に貢献できる領域が無限に広がっていることをこの広告から感じ取ってもらえるからです。実際にコマーシャルをみた若手社員から「自分の仕事の社会的な意味を改めて強く意識するようになった」など心強い反応を得ています。「持続可能な社会の実現に向けて、なくてはならない存在」を目指して、社員とともに企業価値の向上に取り組み、当社のありたい姿、それに向けた取り組みをさまざまな形でお伝えしてまいりますので、当社グループに引き続きご理解とご支援をよろしくお願い申し上げます。

 

代表取締役社長(CEO)

柿木 厚司